「2.3.5.5の妖怪」シャーマル No.2.5

しずえは父親に謝りたい事があった。 ルールはまず、しずえから会話をす事。 しずえは重いクチバシを開いた。 しずえ:おとん！ 具合悪い時、しんどいのに自力で電車に乗って病院行ってたよね？ その時私が車を持ってたら送り迎えできたのに、ごめんなさい！ 苦しかったよね？ 親父:そんな事は気にしなくていい。 何年ぶりかに聴くおとんの声。 しずえの目からたくさんの涙がこぼれ落ちた。 駅員は指で時間を必死に計っている。 駅員:あと3回しか会話が出来ないので、お気をつけください。時間の方はまだまだありますから。 しずえはもう一つ謝りたかった。 しずえ:あと、ガリガリに痩せてしんどい時も、私、家に帰るのが怖くて 、痩せ細ったおとんを見るのが怖くて、、、 何回か仕事をわざと残業してたの！ 本当にごめんなさい！ しずえは震えて声を荒げた。 親G :気にしてないよそんな事。 しずえの顔はクシャクシャになるほど泣きじゃくっていた。 おとんのシンプルな返答がしずえの胸に深く刺さった。 後、会話は1回。 駅員は指がつって、時間がわからなくなり、オロオロしていた。 しずえが何か言えば、5回会話をした事になり、おとんとの会話は終わる。 しずえは後悔していた。 一方的な会話に。 そしてもっと何を話すか選ぶべきだったと。 しずえとおとんはひたすら見つめ合っていた。 時間はまだある。 だが終わりは来る。 時間だけが過ぎていく。 駅員:残り時間1分をきりました。 しずえ:あのセクハラ駅員ちゃんと時間計れてたのか。 しずえはもうこの言葉しかないと思っていた。 そう、感謝の言葉。 しずえはクチバシをグッと締め、 そして重いクチバシを開いた。 しずえ:おとんの娘で生まれてきて 良かった！おとんのおかげで私は幸せに育ってます！ ありがとう！ おとんは笑顔をみせ、ゆっくりとパーティーピーポーの電車に乗った。 無情にも電車は動きだす。 車窓からおとんが笑顔でこちら見ている。 しずえは叫んだ。 しずえ:おとん！！おとんの残したグラビアのDVD50枚！ あれ、おかんが売るって言ってたよー！ しずえは泣きながら叫ぶ。 すると、おとんはビクッとなり、焦りながら大きく首を横に何回も振りながら、電車は走り去って行った。 駅員が後ろ歩きでしずえに近づいてきた。 駅員:最後の会話はルール違反になります。 本当ならここの主人、シャーマル様に報告しなくてはならないのですが、今回はあなたとお父さんの品をもう一ついただき、それで手打ちにしましょう。 しずえは泣き崩れていた。 落ちつきを取り戻してから、しずえはバックから思い出の品物を取り出し、駅員にそれを渡した。 おとんのグラビアのDVDを受け取った駅員が空を見上げて呟いた。 駅員:今日は金星と冥王星がとても綺麗ですね。 しずえも空を見上げたが、そこに金星と冥王星はなかった。 その時、ハッと我に戻り、誰もいない駅のホームに1人立ち尽くしていた。 しずえ:あ〜終電行っちゃったか〜、しゃーない！また飲み屋で飲み直そっと！ そしてしずAは駅を出て、競歩で夜の繁華街へと向かっていった。 夜空に金星と冥王星は無かったが、 珍しく天の川が綺麗にみれた夜だった。 終。