シュルレアリスム『悪魔の一家』

とある町にP一家という家族がいた。父、長男、長女、次男の4人家族で、母はいない。この家族には、ある恐ろしい噂があった。母を生贄に悪魔の力をその身に宿したという噂が。そのため、P一家は町の人々から恐れられていた。彼らにはこの噂を裏付ける逸話がいくつもあった。一家の末っ子、すなわち次男を泣かせてしまった男の子の家が全焼した事があった。泣かせたと言っても、よくある子供の口喧嘩であったのだが、結局その男の子の家は一家全滅だった。また、P一家の一人娘、長女の告白を断った男子は階段から転げ落ちて大怪我を負った。長男は部活動でスポーツに励んでいるのだが、試合で彼に対してラフプレーを行った者は例外なく選手生命を断たれるような大怪我を負っていた。さらに、一家の長である父の逸話はすごかった。直接的な関わりがなくても、彼の事を少しでも悪く言う、または悪く聞こえるような事を言った者は次々に町から姿を消していった。だが、どんな時代のどんな場所にも怖いもの知らず、無鉄砲、あるいは大馬鹿者と言うべきか、そのような人間が一定数いるものだ。 「悪魔の一族を倒し、町の平和を取り戻す！」 「悪しき一族を町から追い出す！」 「悪魔など恐るるに足らず！」 「俺は悪魔に挑む！」 このように意気込む者は、この町にもそこそこ存在していた。だが、彼らは共通してこのような意思を表明してから数日後には冷たくなっていた。そして、彼らの傍らには必ず彼らの血で書かれた「決して悪魔を侮るな。」という文字が残されているのだ。こうしたP一家へ対立するような行為をする者たちはどんどん減っていった。町のほとんどの人間は、彼らを恐れて関わりを避ける者と彼らに気に入られようと取り入る者たちに大別された。逆らう者がおらず貢物も多いP一家は、いつの間にかこの町で最大の権力を持つ一族となっていた。だが、この町の人間は誰一人として彼らが何を考えて悪魔と契約し、何を目的にしているのか知る者はなかった。P一家は町で最も知られた一族でありながら、町で最も謎に包まれた一族でもあった。 衝撃のシュルレアリスム文学。待望の一編は袋とじにて完結。乞うご期待。