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男は立ち続けていた。スーツ姿で砂漠のど真ん中に。ミスター・Pはそのあまりにも場違いな格好に目を疑った。 「俺はとうとうこの暑さで体より先に頭のほうがイカれたのか?」 ミスター・Pは思わず呟いた。すると、男が口を開いた。 「いえいえ、旦那様。旦那様がご覧になっている通りでございます。私は当ホテルの支配人です。」 男はそう言った。言われてみれば、確かに男は支配人というような出で立ちであった。しかし、肝心の“当ホテル”の姿が見えなかった。ミスター・Pは奇妙に思い、支配人の男とその周辺をまじまじと見つめた。 「HOTEL MIRAGE」 支配人の立っているカウンターにはそう刻まれていた。それを見てミスター・Pは言った。 「HOTEL MIRAGE。蜃気楼のホテルか…。するとあれかい?突然ホテルが眼の前に現れるとでも?」 「はい、旦那様。仰る通りでございます。」 支配人は真面目な顔で答えた。 「はっはっはっは!あなたは面白い人だ!こんな砂漠のど真ん中で、旅人をからかうためにそんな格好までしているとは。いやー恐れ入った。実に愉快だ。」 ミスター・Pは腹を抱えて笑いながらも支配人を称賛した。人を笑わすためにここまで体を張る人間がいるとは驚かされたのだ。しかし、支配人は相変わらず真面目な顔で続けた。 「いえ、旦那様。当ホテルは冗談などではなく、本当に見えてまいります。」 これにはミスター・Pも感嘆を通り越して呆れ始めた。 「あのねえ、支配人さんよ。あんまりしつこいと、せっかくの爆笑ネタがしらけるってもんですよ。」 ミスター・Pがそう言っても、支配人は依然として真面目な顔で繰り返した。 「皆様、必ず初めはそうおっしゃいます。しかしながら、当ホテルは蜃気楼の如く浮かんで現れるのです。これは紛れもない事実にございます。」 ミスター・Pは、あくまでもそう言い張る支配人を面倒臭く思い始めた。 「そこまで言うなら見せていただきましょうかねえ、そのHOTEL MIRAGEの姿を。」 ミスター・Pは早いところネタばらしをされてしまおうと、支配人の話に乗ってやることにした。 衝撃のシュルレアリスム文学。待望の一編は袋とじにて完結。乞うご期待。
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