シュルレアリスム『強欲なものたち』

ミスター・Pは走っていた。闇夜をただひたすらに走っていた。時折後ろを振り返ったり、周囲を見回したりしながら。彼は追手や警察を気にしていた。ミスター・Pはある研究機関から“何か”を盗み出していた。何かというのは、彼自身も何を盗んだのかはわからなかったのだ。ただ、人々を貧困から救う世紀の発明だということだけはわかっていた。 「はあ…はあ…。うわあ！何だよ、木か！くそっ！」 ミスター・Pは風に揺らぐ木にさえ反応するほど神経質になっていた。何故、彼はこうなるまでして研究機関から盗みを働いたのか。それは、貧困に喘いでいたからだ。ミスター・Pの村は農業で成り立っていたが、時代の流れとともにそれだけでは立ち行かなくなってきていた。彼は生き抜くため、街で盗みを働くことを考えた。法を犯しても自分だけは貧困を脱して富を手に入れるのだという欲望が、彼を突き動かしたのだ。そして、偶然にも街角のテレビで見た、とある研究機関の貧困を救うという発明に目を付けた。ミスター・Pの犯行計画はずさんであったが、貧困から抜け出して生き抜くのだという強い意志があったためか、このときまで捕まることなく逃げ切っていた。 「もう少しで村だ。これなら今夜中に辿り着ける。」 彼は必死に駆け抜けた。月明かりや星の輝きから身を隠しながら。そして、日の出の1時間ほど前に、ミスター・Pは村に帰り着くことができた。だが、彼が一息つく暇はなかった。遠くで鳴り響くサイレンの音が彼の村まで迫ってきていた。 「くそっ！何でだ！もうかよ！くそっ！」 ミスター・Pは焦りに焦った。ただ、この日の彼は冴えていた。盗んだものをひとまず自分の畑に埋めて隠すことにした。そして、そのまま明け方から畑作業をしているふうに装い、その場所を見張るという算段であった。結局その日、警察が村に訪れることはなかった。とはいえ安心できないため、ミスター・Pはしばらく毎日のように畑を耕していた。 「いやーPさん、熱心ですなあ！」 「ははは。しばらくサボってたんでね。取り返そうかと。お恥ずかしい。」 村人に声を掛けられた際はこう答え、ミスター・Pは上手いことやり過ごした。1週間ほど経ったものの警察がやってくる気配がまるでなかったため、彼は埋めたものを掘り起こしてみることにした。ところが、いくら掘れども、畑からは何も出てこなかった。 「どういうことだ！？くそっ！見失ったのか！？」 ミスター・Pは青ざめた。 衝撃のシュルレアリスム文学。待望の一編は袋とじにて完結。乞うご期待。