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機嫌の良い風の精霊がすうっとレイカの横を通っていく。巻き上げられた草葉がむき出しの首や手に当たってちりりとした痛みを与えるが、そんな些細な感触よりも清々しい空気を心地よく思い、彼女はヴェールを取って息を吸い込む。 「レイ」 咎めるような声に軽やかに振り向く。少し視線を外した銀色の瞳が不機嫌そうな色をしていた。 「私の顔立ちに怖じけつくような人は、ここにはいないでしょう?」 「そうじゃなくて」 ヴェールをとったことを咎めたのではないとしたらなんなのだろう。風に舞う黒髪を押さえつけてシズクの瞳を覗き込むと、彼は仏頂面でレイカの白く華奢な手首を取った。 「血が出た」 「ああ…すぐ止まるわよ。大丈夫」 何でもないと微笑すると、シズクは溜息をついて薄い切り傷をそっと撫でる。 「精霊たちは、なんでこんなに配慮が足りないんだ」 「彼らのせいでなくても風はどこでも吹いてるわ。草が当たったのはただの偶然よ」 「じゃあ、きみはせめて、自分が怪我したことにさっさと気付いてくれ」 「こんなの怪我の内に入らないでしょう」 傷を撫でられてくすぐったい。やけに何度もなぞると思ったら、僅かについた血を拭おうとしているらしい。 「この切り傷が腕一本を埋め尽くしても、きみはそう言うんだろうけどな」 呆れたように紡がれる言葉に失礼な、と抗議をしようとしたが、それよりも先にシズクの唇が手の甲に触れた。 一瞬ぽかんとその光景を見つめて、押し当てられた感触からじわじわと熱が広がっていく感覚に、慌てて手を引っ込める。 顔も、赤くなっているような気がする。銀色の瞳が面白げに煌めいて、それはとても綺麗な色だと思ったけれど、レイカは拗ねるように睨みつけた。 今にも頬を膨らませそうなレイカに、シズクは珍しく笑い声を上げて、風に踊る艶やかな髪に指を梳き入れた。 [シズク&レイカ]
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