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目が覚めると、そこは独房だった。ミスター・Pは辺りを見回した。 「覚えがない…。」 彼には自分が犯した罪の記憶がなかった。それだけではない。彼は諸々の記憶がなかった。 「俺は、記憶喪失…なのか!?」 ミスター・Pは自分の置かれている状況を整理した。彼は、自分や物の名前、言語、道具の使い方などは覚えていた。逆にないものは、思い出だ。家族、仕事、趣味、これらのことは何も思い出せなかった。思い出がなければ、自分がどんな人間なのかわからない。だが、彼は自分は正しいことを好み、悪を憎む人間だと感じていた。感覚的にわかるのだ。それだけに、ミスター・Pはなぜ自分が独房にいるのかわからなかった。考えごとをしていると、お腹が減ってきた。ミスター・Pは部屋の隅にあるボタンを押した。すると、何かが転がる音がして、ボタンの下の受け渡し口から缶詰が配膳された。ちょうど、自動販売機のような感じであった。ミスター・Pは缶詰を食べながら考えた。 「俺はなぜかここの食事の配膳方法を知っていた。いや、体が覚えていたというべきか。それはつまり、俺がここで暮らし始めて長いということなのだろうか?」 ミスター・Pは自分が本当に正しいことを好む人間なのか不安になってきた。自分が忘れているだけで、記憶をなくす前はどす黒い人間なのではないかと。そんなことを考えていると、何やら外が騒がしくなった。ミスター・Pはほんの少しだけ外が見える鉄格子を覗いてみた。すると、オレンジ色のユニフォームを身にまとったサッカーチームが練習をしていた。 「この塀の外はサッカーグラウンドがあるのか。地元のチームだろうか。気になるな。もしかして、サッカーは俺の趣味だったのか?」 ミスター・Pは彼らを見てそんなことを考えた。彼らは2時間程の練習を終えてグラウンドから去っていった。ミスター・Pはこの2時間ずっと彼らの様子を見ていた。そして、その後は再び自分が何の罪でここにいるのかを考え始めた。すると、しばらくしてミスター・Pの独房の隅にあるボタンが点灯した。彼は立ち上がり、ボタンの前へ歩いていくとそこで正座をした。彼はボタンの前で手を合わせると、それを押した。ボタンを押すと数字が表示された。ただ、それだけであった。ミスター・Pはこのボタンが何なのか見当もつかなかったが、彼の体が覚えているようで勝手に動いていた。 「やはり、自分はこの独房に長いこといるのだろう。」 ミスター・Pはそう思った。 衝撃のシュルレアリスム文学。待望の一編は袋とじにて完結。乞うご期待。
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