シュルレアリスム『夢の砂漠』

ミスター・Pはよく同じ夢を見た。世界のどこともつかぬ砂漠で立ち尽くしていると、白い岩の塊のような雲がいくつか浮かんでいる。水蒸気である雲が岩のようというのは矛盾しているようでもあるが、夢であるから仕方ない。そういうものなのだ。そして、何故かミスター・Pは雲のほうから視線を感じるのだ。まるで、じっくりと観察されているような感覚を受ける視線だった。夢の内容はこれだけ。厳密にはその続きを彼が覚えていないだけなのかもしれないが、彼が見たと記憶している夢はこれが全てだった。ミスター・Pはこの夢が良いものなのか悪いものなのか判断しかねていた。不気味という意味では悪夢のようでもあるが、悪夢と呼ぶにしては何も起こらな過ぎると言える。なんとも中途半端な夢である。しかし、ミスター・Pの興味関心を引くという点では、この夢は十分であった。彼はこの夢に夢中になった。「夢」に「夢中」とは馬鹿げた表現だが、この事実を表すにはこれがベストと言えた。ミスター・Pは手始めに夢占いというものをやってみた。占いによると夢に砂漠が出てくると孤立無援の状況を暗示していると言うが、ミスター・Pはいまいちピンとこなかった。やがて、彼はこの夢は世界のどこかの景色なのではないかと考え始めた。ミスター・Pはインターネットや本で砂漠の写真を調べ始めたが、それでも「これだ！」というものには出会えなかった。ミスター・Pは次第に写真で探すだけでは物足りなくなり、世界の砂漠を渡り歩くようになった。幸い彼は歳は若いが資産家であり、このような生活をしていても金に困るようなことはなかった。周囲の人々は金持ちの道楽はよくわからないという反応であったが、ミスター・Pは夢で見た砂漠の景色が気になって気になって仕方なかった。 衝撃のシュルレアリスム文学。待望の一編は袋とじにて完結。乞うご期待。