シュルレアリスム『箱入りのお姫様』

とある場所、とある国に大層美しいお姫様がいた。名をプリンセス・Pといった。彼女は隣国の王族がこぞって求婚するような美女であった。だが、国民からの支持はいまいちであった。というのも、彼女は箱入り娘としてほとんど人前に姿を見せずに過ごしてきた上、とてもわがままだったのだ。プリンセス・Pは自分の美しさを理解していたし、美しければある程度のわがままは許されるとも思っていた。箱入り娘としてなかなか城から出られない自分に、皆が同情するだろうとも考えていた。しかし、彼女はある程度の加減を間違えていた。度が過ぎたわがままがしばしば見られ、加えて浪費家でもあった。彼女に対していい印象を持つ者は少なかった。だが、この国の王族全体に対する国民の支持は高い方であると言えた。それは、ひとえにプリンセス・Pの父、すなわち国王の人徳によるものだった。彼は娘と打って変わって人に優しい人間だった。逆の見方をすれば、それ故に甘やかされたプリンセス・Pがこのように育ったとも言えるのだが。ある日、彼女は突然、数人の従者たちを連れて遠くにある森の別荘に行きたいと言い出した。これは、彼女のいつもの思い付きからくるわがままであった。 「お前達、準備なさい！私は森の別荘に行きたいわ！今すぐよ！馬車を出しなさい！」 言い出したら聞かないプリンセス・Pの性格をよく知っている従者たちは、黙って彼女の言うことを聞いた。城か別荘かで王族か従者にしか会ったことのない彼女に同情していた部分もあったかもしれない。別荘までの道のりは城を出て3日ほどである。従者たちは急いで馬車を用意し、出発した。城を出ると空は荒れ模様であったが、プリンセス・Pはお構いなしだった。当然、従者たちは彼女の言うことを聞くより他なかった。だが、天候は次第に悪くなり、3日目には大嵐となった。一行はなんとか別荘へ辿り着いた。 「何よ、これ！最悪だわ！」 プリンセス・Pは喚き散らしたが、従者たちは黙って粛々と掃除を始めた。 「あっ！」 そのうち、1人の従者が大きな声を上げた。 「何よ！騒々しい！」 プリンセス・Pは苛立ちをあらわにした。 「申し訳ありません、姫様。しかし、我々よりも先に来た曲者がいるようなのです。あちらの部屋に人影が見えました。」 従者は奥の部屋を指差した。すると、部屋の扉がゆっくりと開いた。中からは、みすぼらしい老婆が現れた。 「あっ！」 一同は声を上げた。老婆はゆっくりとした足取りで近付いて来た。その様子がなんとも言えず不気味であった。 「おい、お前！誰の許可を得て私の別荘に入った！この薄汚いババアめ！」 プリンセス・Pは老婆を激しく罵った。 「ふぉっふぉっふぉ。」 だがしかし、老婆は余裕の笑みを浮かべていた。 衝撃のシュルレアリスム文学。待望の一編は袋とじにて完結。乞うご期待。