シュルレアリスム『子供天国』

T海に浮かぶ島国F。F国民には子供を大切にする気質があった。もちろん世界の多くの国と地域もそうであるとは思うが、F国の子供を慈しむ心は恐らく世界一であろう。この国にはAランドからZランドという子供たちのための施設がある。その中でもNランドは特に子供たちを大切にしていた。Nランドはいくつかある孤児のための施設であり、数千人の身寄りのない子供たちが暮らしていた。この施設は子供たちの楽園がコンセプトとなっており、子供たちは王様、いやそれどころか神様のような扱いであった。Nランドの職員である大人たちは子供たちの要望を叶えるため、不断の努力を続けていた。子供の願いは大人の願いとは大きく異なっていた。大人は無意識に可能不可能を判断しているのか、実現可能な範疇を出ない願いがほとんどである。それに対して、子供たちは自由な発想の願い事をするのだ。よく言えば夢があるのだが、これを100%叶えるNランドの職員たちからすると相当に厳しい要求であると言えた。中でも少年Pの願い事は高難度のものが多い。例えばある日のこと、彼は同じNランドの友人とペンギンの話をしていた。 「なあ、ペンギンって知ってるか？南極とか寒いところに住んでて飛べない代わりに泳げる鳥なんだぜ。色は白と黒らしい。俺は思うんだよな、南極とか氷しかないからペンギンは白黒なんだって。ほら、ホッキョクグマも真白だったりするだろ？それでさ、この島みたいに温かいところにペンギンを連れてきたら、俺は緑色になると思うんだよな。俺、見てみたいなあ。緑のペンギンを。」 少年Pはそう言い出した。Nランドの職員は大慌てだった。予想だにしない願い事であり、すぐに対策会議が開かれた。 「また少年Pの願い事ですね。彼は緑色が好きでしたからね。遺伝子を改変して緑のペンギンをつくりますか？」 若手職員のミスター・Mが本部に報告にきた。 「いや、それでは時間がかかり過ぎるだろう。」 「だったらペンギンを緑に染めればいいんじゃないか？」 「なるほど。確かに色が抜けていかない染料を作れば可能だな。よし、開発に移ろう。」 Nランドの職員たちは優秀な人材に溢れていた。このような無理難題も簡単に解決策を見出してしまう。だが、そもそも不可能なことは不可能と言ってしまえばいいものである。子供たちの教育のためにもそのほうがよさそうなものである。だが、どんなに優秀な彼らも、これには気が付かなかった。それだけ、Nランドは子供が第一の考え方ということなのだろう。 衝撃のシュルレアリスム文学。待望の一編は袋とじにて完結。乞うご期待。