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青露様は大きな口を開けて、食べかけの吹雪饅頭を放り込みました。 「ここに座って、一緒に食べましょう」 縁側を手で叩いて男に隣に座れと催促すると、彼は嬉しそうにやって来て饅頭を頬張りました。 「そういえば貴方の名前をまだ聞いておりませんでした。私は青露。貴方のお名前は?」 口いっぱいに入った饅頭を無理矢理飲み込んで、男は名乗ります。 「申し遅れました、私は花染と申します。」 「花染様・・・ですね。」 「はい!よろしくお願い致します。この吹雪饅頭は美味しいですね!粒餡がぎっしり!街の粒餡も美味しいんですけど、この村の粒餡はまた格別・・・あれ?なんで街の事を知っているのでしょう。私はこの村で産まれてなかっ・・・た?」 花染様は饅頭を上の空で見詰めていました。青露様は驚いたように男へ近づきます。 「アジサイはこの村で産まれて、この村で育つ。書物にそう書いてありました。花染様は外からやって来たのですか?」 「・・・以前、街で円滑に商売をするために二人の男女のアジサイが街で暮らしていました。二人はやがて結婚して私を産み、しばらくは人間に囲まれて過ごしていましたが、人間同士の争いが増えてきた頃、街へ買い出しに来ていた逆花様と村へ戻ることにしたんです。つまり私は、街産まれの村育ちなアジサイだったんですよね。だから村で作られた吹雪饅頭を食べた時、餡子の美味しさがよく分かったみたいです。五百年眠っていたせいか、すっかり忘れていましたよ。」 花染様は嬉しそうに笑って、食べかけの饅頭を口に放り込みました。青露様も口角を上げてお茶を飲み、そして口を開きます。 「花染様のご両親のおかげで、村で育てることができる野菜の種類が増え、見たこともないような花に触れることができ、さらに人間について学ぶことができたのです。彼らの功績は未来に語り継がれることでしょう。よろしければもっと、お話を聞かせてください。」 そうして二人で様々な会話をしてしばらく経った頃、花染様は夕日に照らされながら、ほんのり恥ずかしそうな様子で言います。 「そういえば逆花様と一緒に再び街へ買い出しに出掛けた時、大蛞蝓様に似合うと思って、赤い口紅を買ったんです。そしたら大蛞蝓様は大層喜んでくださって・・・。」 花染様はハッとした様子で青露様を見詰めると「こんなこと青露様に言うものではないですね。」と言って、気まずそうにお茶を飲み干しました。 「私はもう百年以上生きているので立派な大人なんです!だから恋の話も聞かせてください。」 青露様は腰に両手を当てて胸を張ると、花染様と笑い合いました。 やがてどれほどの時間が経ったのでしょうか。二人はまるで昔からの知り合いのように話題が尽きることがありませんでした。 青露様は花染様と別れ、自室に戻ろうと廊下を歩いていると雫様に呼び止められました。 「五百年前に事件が起きたからと言って、蛞蝓とアジサイとの関係で変わった事など何一つとなく、それ故、事件についてお前が考える必要はない。」 その言葉に、青露様はムッとして言い返します。 「兄様は人間である花染様が五百年生きていても、変わった事はないと言うのでしょうか?」 「お前は蛞蝓で、あの男はアジサイ。ただそれだけが事実だ。」 ーーー 前作「蛞蝓(なめくじ)様とアジサイ様」の続きの作品です! 物語の続きは限定袋とじメッセージで読むことができます!
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