他の記事を見る
share
1
毎月新月の夜に開催予定の「そろばん百物語」
8月16日(水)に第二回が行われます
今回はその時に披露する第二話の一部分をブログで公開いたします
タイトル:わたし
私、村田ヒカルは学校が終わるとまっすぐ家に帰宅し、ランドセルを玄関先に半ば投げるように置き、制服のまま家を出た。木曜日は6時間授業ということもあり、帰宅時間がいつもより遅い。
私は月曜日と木曜日の週に2日、そろばん教室に通っている。おばあちゃん子だったこともあり、祖母の家に行く事が多く、祖母の家にあったそろばんを触って遊んでいたところをたまたま見られ、「ヒカルちゃんはそろばんが好きだねえ」と祖母に言われたことがきっかけで通うことになった。もう三年くらい前の話だけれど。正直なところ、特にそろばんが好きというわけではなかったが、祖母にそう言われたときに断ることができなかったというのが正直な話。
家からそろばん教室までは歩いて大体二十分くらいの距離。家を出て一度大通りに出てから路地に入るルートだ。私の住むN県S市は人口5万人ほどの小さな市で昔からの言い伝えで、昔は都を追われた色々な身分の人たちがこの場所に集まった歴史があるらしい。だからどうということもないし、それにちなんだ町おこしがあるわけでもない。特にそれを語り継ぐ人もいなければ、郷土史にその記載があるわけでもない。私自身、その話を知ったのも祖母との会話の中で少し出てきた程度で、正直気にも留めていなかった。
「しかし、暑いな。」
思わず独り言が出るほどの暑い日だった。
そろばん教室が始まるのは夕方5時。学校が終わって家を出るのが大体4時半くらいなので、時間的に余裕はない。しかも8月は夕方突然土砂降りに見舞われることもあり、そうなると私のやる気もどんどん下がっていき、めそめそしながら教室に行く事もあった。
―この時期は夕立が来るから、教室に着替えを置いときなさい。
【中略】
―え、でも、そんなこと、ある?―
頭が追い付かないとはまさにこのことだ。本当に恐怖を覚えたときの人間というのは、こうも情けないものなのだということを痛感する。背中に冷たいものが走るのを感じた。
その時、ドア越しに私を見つけた先生と目が合った。
先生は少し驚いた様子で私の方へ近づいてくる。
「ヒカルちゃん、どうしたんだい?もう授業は終わったから、帰っていいんだぞ?ははは。」先生は冗談交じりに言うとさらに続ける。
「おーい。ヒカルちゃん、聞いてるかい?」
聞こえてはいる。聞こえてはいるのだけれど、何とも体が動かない。あれ?今まで私、どうやってしゃべっていたっけ?うまく言葉が出ない。目の前には、そろばんをはじくわたし。意識が遠のいてくのが分かる。先生が私に話しかけている声が少しずつ遠くなっていき、目の前が真っ暗になっていく。
「おい!ヒカルちゃん!」
その言葉を聞いたのを最後に、私はその場に倒れこんでしまった。
是非、続きは8月16日(水)11時~下記メタバース会場でお楽しみ下さい
コメント