カーテン越しにさっき聞いたガラガラの低い声が聞こえた。全身が震えるのが分かった。ガラガラの低い声であるが、女の子の声であることは分かる。おそらく、小学生くらい。私は直感的にその声の正体が『もう一人の私』であることが分かった。

　カーテンが開く音がした。いよいよ、来る、来ちゃう、来るな、くるな、来ないで！お願いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。バクバクする心臓が不安を増幅させる。

　「ヒカルちゃん、大丈夫？」

　さっき来てくれた看護師さんの声が布団越しに聞こえてきた。。

　「ヒカルちゃん、布団から出れるかな？大丈夫？」やさしい声で私に話しかける。その声に安堵し、少し落ち着く事ができた。相変わらず手足は震え、涙でボロボロだったけれども。

　私はかろうじて声を出すことができた。布団から出るにはもう少し落ち着く時間が欲しかったけれど、とりあえずは声が出せた。

　「ヒカルちゃん、怖い夢を見ちゃったかな？大丈夫よ。落ち着いたらお布団から出ておいで。」

　看護師さんの声にさっきよりもさらに落ち着きを取り戻したのが分かった。少しずつ手先の感覚が戻り、心臓のドキドキが落ち着いていく。私はゆっくりと布団から顔を出すことができた。

　さっきの看護師さんが私を覗きこんでいる。やさしい笑顔でこっちを見ている。

良かった。本当に良かった。私はホッと胸をなでおろした。きっと悪い夢だったのだ。そうだ、そうに違いない！私は自分に言い聞かせるように心の中で思った。

　「う、うん。大丈夫、です。」

　私はさっきよりももう少しだけ落ち着いた声で看護師さんに返事をした。看護師さんは一連の看護業務をテキパキこなし、「わ！脈拍早いね！」などと途中話しかけながらカルテに記録を書き込んだ。

　「ヒカルちゃん、またあとで見回りに来るけど、何かあったらこのボタンを押してね。」看護師さんはナースコールを手渡しながらそう言って部屋を出ていった。

　少しの恐怖はまだ残っていたが、さっきの出来事が夢だったことと、ナースコールを持たされたこと、看護師さんと話せたことで、いつもの私に戻りつつあった。

　その日はそのまま眠りについた。

　どうか、どうか変な夢を見ませんように。

　お母さんは朝九時の退院時間に合わせて受付に迎えに来てくれていた。昨日はなんだか疲れてしまって、そのまま眠りについた。あの後は特に怖い夢は見なかったし、(ドン・キホーテでタコ焼き機をたくさん買う夢を見ただけだった。それはそれで変な夢だけれども。)不思議な体験もしなかった。

　昨日の看護師さんは夜勤明けで少し疲れた顔をしていたが、私と一緒に受付まで来てくれて、お母さんに昨日の私の様子などを話した。まあ、大きな病気で入院したわけではないから、受付で立ち話程度の話だった。

　それからお母さんは会計を済ませ、私と一緒に病院を出た。

　お母さんの運転はとても丁寧で、お気に入りの音楽が流れている。お母さんに昨日の出来事を話そうかとも思ったが、余計な心配をかけたくないし、何より、自分自身が昨日のことを思い出したくなかったのでやめておいた。

　「あ、そういえばお母さん、学校に休みの連絡したの？」

　一応今日は金曜日なので、学校がある日。お母さんはすかさず「したわよ」と答えた。

　それからしばらくして家に着き、私は自分の部屋に行きベッドに横になった。眠たくはなかったが、昨日の夜のことがうっすら頭にあり、体がとても疲れているのが分かった。

　お母さんは昼からパートに行っている。お父さんは平日は会社に行っているから当然いない。出かけるときに「ご飯作ってあるからね」と言って出ていった。

　一軒家の我が家に一人でいることは少なくはなかったが、平日の昼間に一人で家にいることはあまりないので、なんだか新鮮な気持ちだ。なんだか自分だけ得した気分でいた。

　リビングに行くとお母さんが作ってくれたご飯にラップがかけられて用意されていた。

　私はそれをレンジで温めて食べようと台所に向かった。

台所には、昨日そろばん教室で見た「わたし」が経っていた。鋭い目つきでこちらをにらみつけている。その顔には恨みが宿っているようにも見え、それでいて顔には全く命を感じない。

　私は恐怖のあまり手に持っていたお皿を落としてしまった。バリーン！と大きな音を立てて割れたお皿と、盛られていた料理が床に飛び散る。恐怖で足が震える。わなわなと震えてきて、涙で視界が奪われるのが分かった。

　どうしていいのか分からない。逃げ出したくても、足が動かない。

　目の前にいる「わたし」がこんな歌を口ずさんだ。表情一つ変えずに、口もとだけをかすかに動かしながら。

　「むーかーし　みーやーこーの、とーのさーまにー。おーわれ　こーこに　なーがれーつーくー。よーぞーら　みーあげーて　ほーし　みーれーばー。とーおーき　みーやこーの　かーねーがー　なるー。」

あ、、、そ、、、ぼ」&nbsp;　カーテン越しにさっき聞いたガラガラの低い声が聞こえた。全身が震えるのが分かった。ガラガラの低い声であるが、女の子の声であることは分かる。おそらく、小学生くらい。私は直感的にその声の正体が『もう一人の私』であることが分かった。&nbsp;　ざ！&nbsp;　カーテンが開く音がした。いよいよ、来る、来ちゃう、来るな、くるな、来ないで！お願いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。バクバクする心臓が不安を増幅させる。&nbsp;　「ヒカルちゃん、大丈夫？」&nbsp;　さっき来てくれた看護師さんの声が布団越しに聞こえてきた。。&nbsp;　「ヒカルちゃん、布団から出れるかな？大丈夫？」やさしい声で私に話しかける。その声に安堵し、少し落ち着く事ができた。相変わらず手足は震え、涙でボロボロだったけれども。&nbsp;　「う、うん」&nbsp;　私はかろうじて声を出すことができた。布団から出るにはもう少し落ち着く時間が欲しかったけれど、とりあえずは声が出せた。&nbsp;　「ヒカルちゃん、怖い夢を見ちゃったかな？大丈夫よ。落ち着いたらお布団から出ておいで。」&nbsp;　看護師さんの声にさっきよりもさらに落ち着きを取り戻したのが分かった。少しずつ手先の感覚が戻り、心臓のドキドキが落ち着いていく。私はゆっくりと布団から顔を出すことができた。&nbsp;　「大丈夫？」&nbsp;　さっきの看護師さんが私を覗きこんでいる。やさしい笑顔でこっちを見ている。良かった。本当に良かった。私はホッと胸をなでおろした。きっと悪い夢だったのだ。そうだ、そうに違いない！私は自分に言い聞かせるように心の中で思った。&nbsp;　「う、うん。大丈夫、です。」&nbsp;　私はさっきよりももう少しだけ落ち着いた声で看護師さんに返事をした。看護師さんは一連の看護業務をテキパキこなし、「わ！脈拍早いね！」などと途中話しかけながらカルテに記録を書き込んだ。&nbsp;　「ヒカルちゃん、またあとで見回りに来るけど、何かあったらこのボタンを押してね。」看護師さんはナースコールを手渡しながらそう言って部屋を出ていった。&nbsp;　少しの恐怖はまだ残っていたが、さっきの出来事が夢だったことと、ナースコールを持たされたこと、看護師さんと話せたことで、いつもの私に戻りつつあった。&nbsp;　その日はそのまま眠りについた。&nbsp;　どうか、どうか変な夢を見ませんように。「輪廻の果て」&nbsp;　お母さんは朝九時の退院時間に合わせて受付に迎えに来てくれていた。昨日はなんだか疲れてしまって、そのまま眠りについた。あの後は特に怖い夢は見なかったし、(ドン・キホーテでタコ焼き機をたくさん買う夢を見ただけだった。それはそれで変な夢だけれども。)不思議な体験もしなかった。&nbsp;　昨日の看護師さんは夜勤明けで少し疲れた顔をしていたが、私と一緒に受付まで来てくれて、お母さんに昨日の私の様子などを話した。まあ、大きな病気で入院したわけではないから、受付で立ち話程度の話だった。&nbsp;　それからお母さんは会計を済ませ、私と一緒に病院を出た。&nbsp;　お母さんの運転はとても丁寧で、お気に入りの音楽が流れている。お母さんに昨日の出来事を話そうかとも思ったが、余計な心配をかけたくないし、何より、自分自身が昨日のことを思い出したくなかったのでやめておいた。&nbsp;　「あ、そういえばお母さん、学校に休みの連絡したの？」&nbsp;　一応今日は金曜日なので、学校がある日。お母さんはすかさず「したわよ」と答えた。&nbsp;　それからしばらくして家に着き、私は自分の部屋に行きベッドに横になった。眠たくはなかったが、昨日の夜のことがうっすら頭にあり、体がとても疲れているのが分かった。&nbsp;&nbsp;&nbsp;　お母さんは昼からパートに行っている。お父さんは平日は会社に行っているから当然いない。出かけるときに「ご飯作ってあるからね」と言って出ていった。&nbsp;　一軒家の我が家に一人でいることは少なくはなかったが、平日の昼間に一人で家にいることはあまりないので、なんだか新鮮な気持ちだ。なんだか自分だけ得した気分でいた。&nbsp;　リビングに行くとお母さんが作ってくれたご飯にラップがかけられて用意されていた。　　私はそれをレンジで温めて食べようと台所に向かった。ぞっとした。　台所には、昨日そろばん教室で見た「わたし」が経っていた。鋭い目つきでこちらをにらみつけている。その顔には恨みが宿っているようにも見え、それでいて顔には全く命を感じない。&nbsp;　私は恐怖のあまり手に持っていたお皿を落としてしまった。バリーン！と大きな音を立てて割れたお皿と、盛られていた料理が床に飛び散る。恐怖で足が震える。わなわなと震えてきて、涙で視界が奪われるのが分かった。&nbsp;　どうしていいのか分からない。逃げ出したくても、足が動かない。&nbsp;　その時だった。&nbsp;　目の前にいる「わたし」がこんな歌を口ずさんだ。表情一つ変えずに、口もとだけをかすかに動かしながら。&nbsp;　「むーかーし　みーやーこーの、とーのさーまにー。おーわれ　こーこに　なーがれーつーくー。よーぞーら　みーあげーて　ほーし　みーれーばー。とーおーき　みーやこーの　かーねーがー　なるー。」

怪談会そろばん百物語【わたし】物語二（後編）

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